スクラップブック(その3)
その女性は、「探していたのはたぶんこれだと思う。」と言って、と古びたスクラップブックを三冊僕に差し出しました。そして、男性について語ってくれました。
男性は、新聞記者でした。僕の前のその前に住んでいた人だそうです。
親切で、正義感が強く、立派な記者だったそうなのですが、急な病気に倒れてしまい、急きょ病院に入院し、そのまま他界されてしまいました。
親族の方が上京してきて、葬儀を済ませたそうです。部屋にはその方の遺品が残されていました。そのうち大きなものは親族の方が引き取っていきました。「捨てておいてください。」と言われた荷物の中にそのスクラップブックがあったそうなんです。
開いてみると、三億円事件、森永グリコ事件、浅間山荘事件など昭和の有名な事件の新聞記事が貼り付けられて、大切に保管されていました。
なかでもひときわ目を引いたのが、三島由紀夫の割腹自殺の記事でした。他の事件より保管してある量が多かったのを憶えています。
文筆の仕事をしている友人に聞いたのですが、その年は、いわゆる三島事件から30年目の節目にあたり、三島由紀夫に世間の注目が集まっていたとのことです。
その方は三島由紀夫について、改めて調べたくなったのかもしれませんね。
スクラップブックは、また探しにきたときに困らないようにと、僕が預かることになりました。ちょっと怖かったのですが、テレビの下の棚に置きました。
歴史好きな僕は、ふとした時に、そのスクラップブックを開いては、その記事を読んで過ごしました。おかげで、僕自身も昭和史の知識が深まったと思います。年配の方と話す時に、いまでもその知識が役立っていると思うときがあります。
それにしても、いまでも腑に落ちないのですが、あれは夢だったのでしょうか。それとも、現実にやって来たのでしょうか。 (スクラップブック 完)